黒一色のきものと帯……葬儀でお召しになる、おなじみの礼装のきものは一般的に「喪服」と呼ばれますが、正式には「黒紋付き」といいます。「モンツキ」ですから、家紋が付きますが、何個でもよいという訳ではありません。さて家紋がいくつ付いているのが正しいのでしょうか?
正解は5つ。五つ紋と呼ばれる第一礼装のきものです。背中、左右の胸、両袖の5カ所についている家紋の一つひとつに意味があるんです。その昔、災いや邪気は背中から入ってくると畏れられていました。そこで背中を守るために背中の家紋はご先祖様。両腕は両親。胸は兄弟や近親者を意味し、この5つの家紋で血筋とか一族を表したという訳です。五つ紋のきものを持つことは、ご先祖様に守っていただくことを意味します。
いつ必要になるか分からない喪服=黒紋付きを、嫁ぐ前の娘のために支度をするというのは、ご先祖様に守っていただくという意味で、お嬢様のお守りを誂えるという意味があるからかもしれませんね。最近では、初節句の人形のようにおじいさま、おばあさまが孫娘のために黒門付きを誂え、箱にご自分たちのお名前を遺されるという方も増えているとか。
ご先祖様の数

自分から数えて親の数は2人。そのまた親、つまりおじいさんとおばあさんの数は4人。これでご先祖様は6人。この要領で10代さかのぼってみてください。なんと1024人のご先祖様が自分を守ってくれているのです。さらに20代前までさかのぼると、驚くべきことに100万人以上のご先祖様がいる計算になります。さらにさかのぼると……? 想像つかないくらい多くのご先祖様ですね。
どんな人でも間違いなく膨大な数のご先祖様がいて、そのご先祖様たちがいたからこそ、今ここに自分が存在するのです。多くのご先祖様を背中に背負っている五つ紋の黒紋付きが、身を守ってくれる「お守りのきもの」と言われる所以です。
ワンポイント
かつて、花嫁の晴れ着は黒紋付きでした。汚れや災厄安堵を祓う力が花嫁の晴れ着にはあるとされ、婚礼の時には筒袖の普段着を、そして葬式の日に初めてその黒紋付きを着たという記録や、嫁ぐときには披露宴をせずに、嫁いで何年も経ってから33歳の厄除けの時に厄除けと披露宴を兼ねて行ったという記録もあります。黒紋付きは不思議な力を持つ、縁起の良いきものだったのですね。



